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「謙虚なコンサルティング」(エドガー・シャイン 著)の「パーソナライゼーション」と「アダプティブ・ムーヴ」とは?

公開日: リーダーシップ, 気になる本

今年の5月に発売になった「謙虚なコンサルティング」(エドガー・H・シャイン 著)
書店に並んですぐに買ったものの読み始めたのは、7月に入ってから、、、
読んでる途中に、他の本を読んだり(同時に2,3冊の本を読むのは私にはよくあることです)してて、昨日、読み終わりました

「組織文化とリーダーシップ」エドガー・シャイン著

「組織文化とリーダーシップ」エドガー・シャイン著

エドガー・シャイン博士の著書は、「組織文化とリーダーシップ」「問いかける技術」と2冊読んでいて、どちらも面白いし、今の仕事というか私の役割の中で、使える!使っていくべきこととがが書かれていたので、興味深く読めました
いずれも、エドガー・シャイン博士が、企業に対してコンサルティングをする実践から、自身が気づき、学ばれたことを体系化して書かれており、事例も具体的で豊富だったからだろうと思います

謙虚なコンサルティング(エドガー・H・シャイン 著)

謙虚なコンサルティング(エドガー・H・シャイン 著)

今回の「謙虚なコンサルティング」(エドガー・H・シャイン 著)は、読んでみてどうだったかというと、、、

「パーソナライゼーション」と「アダプティブ・ムーヴ」

この本を読んでいて、何度も、、、じゃなくて、しょっちゅう登場するのが「パーソナライゼーション」(もしくは「パーソナライズ」)と「アダプティブ・ムーヴ」という2つの言葉

書名が「謙虚なコンサルティング」とあるように、この本では、コンサルタントがクライアントに関わり支援するとき、どのような関係で、どのように関わる(支援する)のかについて書かれています
著者であるエドガー・シャイン博士も、この著書で何度か書かれているように、この本で論じられていることは、コンサルタントだけでなく、友人や上司部下、親子関係でも有効であろうと思います

クライアントとの関係「パーソナライゼーション」

いわゆるコンサルタント、現代のように「複雑」でない社会においては、コンサルタントは、クライアントがかかえる課題や問題をきき、現場へ赴いて、状況を調査して診断、そして、適切な処方により解決策を提案、あるいは、実際に解決に向けて指導します

このときコンサルタントは、クライアントに対して、医者と患者のように、課題や問題の解決策を知っている「専門家」としてかかわります
その関わりは、「レベル1 認め合うこと、礼儀、取引や専門職としての役割に基づく関係」として、定義されています
ここでいう認め合うは、お互いの立場、役割を認めあうということで、言い換えると、あいての領分を侵さない、立ち入らないことを意味します

人間関係における信頼と率直さのレベル 謙虚なコンサルティング(エドガー・H・シャイン 著)より引用

人間関係における信頼と率直さのレベル
謙虚なコンサルティング(エドガー・H・シャイン 著)より引用

これに対し、クライアントと一歩踏み込んだ関係を「レベル2 固有の存在として認知する」としています
一般的なコンサルタントとクライアントとの関係よりも、深い信頼が存在し、率直に思った事を言いあえる関係です
特徴として、1)交わした約束を互いに守る 2)相手をきづ付けたり相手が努力を傾けていることをけなしたりしないと合意する 3)嘘をついたり仕事に関わる情報を隠したりしないことに合意する ことが上げられます

そして、この「レベル2 固有の存在として認知する」の関係こそが、「謙虚なコンサルティング」における有効性を発揮する関係であるとし、その関係を構築することを「パーソナライズ」「パーソナライゼーション」として語られています

さらに深い関係としては、「レベル3 深い友情、愛情、親密さ」があります
このレベル3の関係は、きわめて率直であることや、相手を傷つけないだけでなく、必要とされるときはいつでも積極的に支援する事を意味するため、仕事や支援を行う関係においては、仕事や支援と個人的関係で極度の葛藤が生じる場合があるな、望ましくないものと定義されています

ちなみに、レベルマイナス1という関係もあります
これは、「レベルマイナス1 ネガティブな敵対的関係、不当な扱い」で、囚人や戦争捕虜などの例が挙げられてますが、一般の企業でも、パワハラなどが横行している職場では、上司と部下などでこういう関係となっている場合もあるのではないでしょうか

課題解決のための「アダプティブ・ムーヴ」

これまでのコンサルティングでは、レベル1の関係で、コンサルタントは、医者のような専門家、つまり、課題や問題の解決策を知っていると人として、診断し、解決策を提供してきました
すでに、知られている問題、典型的な課題であれば、算数の問題を解くように解決できます
これは、著書の「はじめに」や引用文献で登場する「リーダーシップとは何か!」(ロナルド・ハイフェッツ著)で、ロナルド・ハイフェッツ博士が提示した「技術的課題」の解決策に相当すると考えられます

「リーダーシップとは何か?」(ロナルド・A・ハイフェッツ 著)

「リーダーシップとは何か?」(ロナルド・A・ハイフェッツ 著)

ただ、現代では、同じく、ロナルド・ハイフェッツ博士が示したもうひとつの問題である「適応を要する課題」に取り囲まれています
例えば、お店や企業においては、クライアント(企業やお店の役員さんや社員さん)の問題、企業内(お店内)の常識というレンズを通しと認識されているために、問題の本質が盲点のように見えなくなっていたり、いくつもの人や部署がからみ、そこにたまに生じる偶発的な出来事が関与して発生する問題の場合、「どこか?」「だれか?」に原因を見いだせず混乱してしまいます
これが、クライアント自身が問題の一部である場合、複合的な要因で問題が起こるため線形思考では解決できないなどの、「適応を要する課題」なのです

【技術的な課題】
・解き方がすでにわかっている
・問題を解決するためにどのような技術を習得すべきかわかっている
・必ずしも簡単な問題とは限らない(が、複雑な数式がそうであるように既にある知識、技術を適切に使用すれば必ず解くことができる)

【適応を要する課題】
・既存の思考様式では解決することが出来ない(難しい)
・個人や組織として思考様式をあらため、それに基づいて行動の修正を繰り返す必要がある

「適応を要する課題」のような複雑な問題は、「あーすれば、こーなる!」式の過去の例題集から解決策を提示するコンサルティングは通用しません
レベル1の関係では、問題の本質が見えてこないため、解決不能に陥ります

そこで、必要となるのがレベル2の関係、、、
クライアントととのパーソナライゼーションにより、ちょっとした個人的な質問、例えば、組織文化を変革したい!という依頼をしてきたクライアントに、レベル1で専門家として、「どのような文化変革のプログラムをとりましょうか?」ではなく、レベル2で「組織文化をどのようなものと捉えていますか?」とか「組織文化がかわるとどうなると思いますか?」などの問いを立て、そこにクライアントが率直に自分の考えを話すことが出来ます
このとき、そもそも、「なぜ、組織変革を必要としていたのか?」という本質に気づき、見かけはまったく異なる問題が浮上してくることもあるし、この種の問いをクライアントが考える中で、自動的に、「とるべき行動」が見えてくることもあるという事例がいくつも紹介されています

解決策ではなく、クライアントとその問題に真摯な好奇心をむけ、本当に役立とう!という謙虚な立ち位置から生まれる問いかけやちょっとした提案など、それらが、この著書で語られている「アダプティブ・ムーヴ」のひとつの側面であると私は理解しています

診断し教えるコンサルティングは?

従来の状況や出来事を診断し、そこから、解決策を教えるコンサルティングは、ダメなのか?
というと、そういうわけではありません

複雑な状況、適応を要する組織期が抱える課題にコンサルタントが向き合うとき、パーソナライゼーションでレベル2の関係を構築し、アダプティブ・ムーヴでかかわる
言い方を変えると、クライアント自身がその「本当の課題」を自分で見つけられるようにする
そして、クライアント自身が、自分たちの課題として取り組めるようにする、、、といえると思います
その中で、専門家としてのコンサルタントの能力やスキルは、真にクライアントを支援、サポートするために発揮されます
そこでは、プロとして、クライアントが発見した状況をさらに詳しく知るとかより明らかにするために、必要な診断方法を提供したりできるのです
パーソナライゼーションし、アダプティブ・ムーヴでかかわる中で、専門家として、専門知識をより効果的に支援に活用できるコンサルティングが可能となると、私は、この本で理解しています

「謙虚なコンサルティング」(エドガー・H・シャイン 著)を読んで

私は、コンサルタントではないし、そうなる予定も今のところありません
ただ、この著書「謙虚なコンサルティング」(エドガー・H・シャイン 著)で語られているレベル2の関係である「パーソナライゼーション」と複雑な課題に対する行動である「アダプティブ・ムーヴ」は、普段の仕事の中で、常に問いかけながら関わっていくものだと思っています

謙虚なコンサルティング(エドガー・H・シャイン 著)

謙虚なコンサルティング(エドガー・H・シャイン 著)

そして、この著書の中や引用文献で「学習する組織」「U理論」「リーダーシップとは何か?」が登場するのは、「パーソナライゼーション」と「アダプティブ・ムーヴ」に代表されるように、今の社会、企業、お店で起きている問題が、これまでの「問題→調査→診断→原因→解決」という直線的な思考や対応では難しくなってきている、、、というのは控えめで、ほとんど、解決出来ないことが示されているのだと思います

今回の「謙虚なコンサルティング」を始め、「学習する組織」「U理論」「リーダーシップとは何か?」でも、問題を解決するのではなく、本当の問題を見つけて、なにかしらそこから行動する!ために役立つものである、、、というのが私の理解です

ロナルド・ハイフェッツ博士がいう「技術的な課題」なら解決出来ますが、「適応を要する課題」は、適応するための行動をとる!ことが肝要なのだろうと思います

そして、この本の中では直接気には語られていませんが、こういう関係を構築し適応的な行動を取る中で、クライアントもコンサルタントも発達という垂直方向の成長が起きているように思います
そうして、その発達がおきれば、より高い次元から観ることが可能となり、より適応的な行動を取って、より人や組織へ(発達の段階が高いほど影響力が高いため)影響力を発揮できるようになるのではないか?と、今、考えています

このような仮説も持ちながら、実際に、たこ梅のスタッフさんと一緒に現場でチャレンジしてこうと思います!!
応援してね!!(^o^)

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